お知らせ

米国で問われる「民間救急」の危機管理上の価値

米国で問われる「民間救急」の危機管理上の価値

日本の民間救急も、平時の搬送サービスから社会インフラへ

米国で、救急搬送の償還制度をめぐる議論が注目されています。

論点となっているのは、カリフォルニア州における公的救急搬送事業者と民間救急事業者の支払い格差です。報道では、公的な救急搬送事業者への償還が大きく引き上げられる一方で、民間救急事業者への支払いは低く抑えられ、結果として民間の救急搬送ネットワークが弱体化する恐れがあると指摘されています。

この問題は、単なる医療費や補助金の話にとどまりません。

大規模災害、感染症流行、大規模事故、さらには有事のような非常時には、病院だけでなく、患者を安全に移動させる搬送体制そのものが社会の命綱になります。消防救急だけでは対応しきれない搬送需要が発生したとき、民間救急や患者等搬送事業者がどれだけ地域に残っているかは、医療提供体制全体の強さに直結します。

日本でも、救急車の出動件数は高い水準で推移しています。東京消防庁は、救急車の要請が多い場合、近くの救急車が出場中となり、遠くの救急車が出動することで到着まで時間がかかる可能性があると説明しています。また、令和6年中の東京消防庁救急隊の出場件数は935,373件で、搬送された方のうち軽症と判断された割合は52.8%とされています。

だからこそ、民間救急は「消防救急の代わり」ではなく、消防救急を本当に必要な人へ届けるための補完インフラとして考える必要があります。

通院、退院、転院、在宅療養者の移動、医療的配慮を要する長距離搬送、災害時の避難支援。こうした領域を平時から民間救急が担える体制を整えておくことは、地域医療の余力をつくることでもあります。

重要なのは、民間救急を単なる有料搬送サービスとして扱わないことです。

平時に民間救急を育てておかなければ、災害時や大規模な搬送需要が発生したときに、急に車両も人材も増やすことはできません。搬送力は、必要になってから整えるものではなく、日常の運用の中で維持しておくべき社会資源です。

米国の記事が示しているのは、公的救急だけを厚くすればよいという単純な話ではありません。公的救急と民間救急が、それぞれの役割を明確にし、公平に評価され、地域全体として搬送力を維持していくことの重要性です。

日本でも今後、消防、医療機関、自治体、介護事業者、民間救急が連携し、緊急搬送と非緊急搬送を適切に分担する仕組みづくりが求められます。

民間救急は、目立たない存在かもしれません。
しかし、地域医療を支える最後の移動手段として、そして非常時に社会を支える予備力として、その価値を改めて見直す時期に来ているのではないでしょうか。