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ロシア・アストラハンの民間救急に見る「通り過ぎる権利はない」という姿勢

― 民間救急は“有料の搬送サービス”にとどまらず、地域の救急医療を補完する存在へ ―
ロシア南部・アストラハンの地域メディア「АРБУЗ」において、民間救急サービスの内情を紹介する記事が掲載されました。
記事の原題は、
「Коммерческая скорая помощь в Астрахани: как работает платная СМП изнутри」
日本語にすると、
「アストラハンにおける民間救急サービス:有料救急車の内情」
という内容です。
この記事では、アストラハン市で公営救急と並行して運営されている民間救急サービス「メドコム・プラス」の活動が紹介されています。
記事ではまず、アストラハン州の公営救急体制について、14の部署、109の出動チーム、医師・救急救命士・看護師・指令員・運転手など1,000人以上の専門職で構成されていると紹介されています。
その一方で、アストラハン市では民間救急サービスも運営されており、記事では次のような問いが投げかけられています。
「それがビジネスなのか、それとも本格的な緊急医療なのかという議論が絶えません。」
この問いは、日本の民間救急にも重なる重要なテーマです。
日本でも、民間救急はしばしば「有料の搬送サービス」「介護タクシーに近いもの」と見られがちです。
しかし、私たち有限会社高千穂産業 民間救急事業部が目指しているのは、単なる移動手段ではありません。
消防救急、医療機関、在宅医療、介護・福祉、行政を補完し、患者様とご家族を安全につなぐ、医療系民間救急サービスです。
広域搬送・地域間搬送・国際搬送まで担う民間救急
記事によると、「メドコム・プラス」の活動範囲はアストラハン市内にとどまりません。
ハラバリンスキー、アフトゥビンスキー、リマンスキーなどアストラハン州全域への出動に加え、モスクワ、サンクトペテルブルク、クラスノダール、ロシア南部への地域間搬送も行っているとされています。
さらに、記事では国際搬送の事例も紹介されています。
「まさに先週、車両がアクタウに出動しました。そこで2人の男性が工場で火傷を負い、さらなる治療のためにアストラハンへ搬送する必要があったのです。片道約18時間かかりました。」
この記述から分かるのは、民間救急が単なる近距離搬送ではなく、長時間・長距離・重症患者の移送にも対応する医療インフラの一部として機能しているということです。
日本でも、民間救急は通院や退院搬送だけでなく、病院間搬送、長距離搬送、在宅療養患者様の受診支援、施設搬送など、さまざまな場面で必要とされています。
特に高齢化が進む中で、患者様の状態に応じた安全な移送手段の確保は、今後ますます重要になります。
車内設備は「病院前段階の救急外来」に近い水準
記事では、民間救急車両の設備についても紹介されています。
車両には、人工呼吸器、除細動器、輸液ポンプ、心電計、患者監視システムなどが搭載されているとされ、担当者は次のように説明しています。
「基本的に、これは病院前段階でほぼ救急外来と同じレベルの設備です」
この言葉は、民間救急の本質を考えるうえで非常に重要です。
民間救急は、ただ患者様を車に乗せて移動するだけではありません。
患者様の状態を観察し、必要な資器材を準備し、急変リスクに備えながら、安全に医療機関や目的地へつなぐ役割があります。
弊社でも、搬送中の患者様の状態観察、バイタルサインの確認、必要資器材の準備、医療機関やご家族への情報共有を重視しています。
もちろん、日本では救急救命士が実施できる処置や薬剤使用には法令上の制限があります。
そのため、海外の民間救急で行われている医療行為を、日本の民間救急がそのまま実施できるわけではありません。
しかし、重要なのは、民間救急にも医療的な視点、設備管理、観察力、記録力、引き継ぎ力が求められるという点です。
この考え方は、日本の民間救急においても共通しています。
「通り過ぎる権利はない」という民間救急の倫理
今回の記事で最も印象的なのは、「付随的な出動」に関する記述です。
記事によると、「メドコム・プラス」のチームは、患者様のもとへ向かう途中で交通事故、意識不明、けが人などの緊急事態に遭遇した場合、現場に停車して対応するとされています。
担当者は次のように述べています。
「ヒポクラテスの誓いの前では皆平等です。民間医療も例外ではありません。たとえ別の出動に向かっていたとしても、緊急事態に遭遇した場合は通り過ぎる権利はありません」
この一文は、民間救急に関わる者として非常に重い言葉です。
民間救急は有料サービスです。
しかし、有料サービスであることと、医療・救急に関わる専門職としての倫理は別の話です。
目の前で人が倒れている。
交通事故でけが人がいる。
意識がない人がいる。
明らかに救急対応が必要な人がいる。
そのような場面で、医療者・救急経験者として「見なかったことにする」ことはできません。
弊社も、民間救急は単なるビジネスではなく、地域の安全を支える社会的責任を伴う仕事だと考えています。
もちろん、日本では現場の安全確保、119番通報、警察・消防との連携、患者様の同意、法令上の範囲などを十分に踏まえる必要があります。
また、本来ご依頼いただいている患者様への対応との調整も必要です。
しかし、根本にある考え方として、民間救急であっても、目の前の命に対して無関心であってはならないという姿勢は、私たちも強く共感するところです。
民間救急は「公的救急の代わり」ではなく「補完する存在」
記事では、民間救急に対して「有料医療はお金のためであり、依頼があった場合にのみ機能する」という固定観念があると紹介されています。
これは日本でも似ています。
民間救急というと、
「お金を払えば来るサービス」
「消防救急とは別物」
「介護タクシーと同じようなもの」
と見られることがあります。
しかし、実際には、地域の中で民間救急が担える役割は広がっています。
たとえば、
緊急性は低いが、医療的配慮が必要な搬送
ご家族だけでは安全に移動できない通院・退院
在宅療養中の患者様の受診支援
病院間搬送
施設から医療機関への搬送
長距離搬送
医療機関や訪問診療との連携
急変時に備えた観察・記録・情報共有
こうした場面では、消防救急だけではなく、民間救急が関わることで、地域全体の救急医療体制を支えることができます。
弊社が目指しているのも、まさにこの形です。
民間救急は消防救急の代替ではありません。
119番通報が必要な緊急事案は、当然ながら消防救急が対応すべきです。
一方で、緊急性は高くないものの、専門的な移送、観察、介助、医療機関との調整が必要な場面では、民間救急が役割を担うことができます。
この役割分担こそが、今後の地域医療において重要になると考えています。
日本の民間救急にも求められる「質」と「覚悟」
アストラハンの記事では、民間救急スタッフの多くが公営医療システムの元職員または現職職員であり、大規模な医療機関で経験を積んだ専門職もいると紹介されています。
これは、民間救急の質を考えるうえで重要な点です。
民間救急は、車両があればできる仕事ではありません。
患者様の状態を観察できる人材、急変リスクを考えられる人材、医療機関に正確に情報を伝えられる人材、現場で冷静に判断できる人材が必要です。
弊社では、民間救急を「消防型の医療系民間救急」と位置づけています。
これは、消防救急と同じことをするという意味ではありません。
消防救急で培われた現場観察、活動記録、チーム活動、資器材管理、引き継ぎ、危険予測といった考え方を、民間救急の現場にも取り入れるという意味です。
民間救急の社会的評価を高めるためには、単に件数を増やすだけでは不十分です。
安全に搬送すること。
患者様とご家族に安心していただくこと。
医療機関に正確な情報を引き継ぐこと。
活動記録を残すこと。
消防・医療・福祉・行政と適切に連携すること。
そして、目の前の困っている人に対して誠実であること。
こうした積み重ねが、民間救急の信頼につながると考えています。
海外事例から見える、民間救急の未来
今回のアストラハンの事例は、ロシアの制度や医療環境に基づくものであり、日本にそのまま当てはめることはできません。
特に、薬剤使用、輸液療法、医療行為の範囲については、日本の法律や制度とは大きく異なる可能性があります。
しかし、それでもこの記事から学べることは多くあります。
それは、民間救急が単なる「有料の移動サービス」ではなく、地域の救急医療を補完する存在として機能し得るということです。
また、民間救急に必要なのは、車両や料金体系だけではありません。
必要なのは、
専門職としての質
現場に向き合う覚悟
公的救急との役割分担
医療機関との連携
地域の命を守るという責任感
です。
有限会社高千穂産業 民間救急事業部は、これからも、消防救急を補完する医療系民間救急として、患者様・ご家族・医療機関・地域社会にとって安心できる搬送支援体制の構築に努めてまいります。
民間救急は、単なる有料搬送ではありません。
地域の中で、必要な時に、必要な支援を、適切な形で届けるための社会インフラです。
そして私たちは、民間救急に関わる者として、
「通り過ぎる権利はない」
という言葉の重みを忘れず、日々の活動に向き合ってまいります。
参考記事
АРБУЗ
「Коммерческая скорая помощь в Астрахани: как работает платная СМП изнутри」
日本語訳:「アストラハンにおける民間救急サービス:有料救急車の内情」
【注意】
海外事例の紹介であり、日本の制度にそのまま当てはめるものではありません